映画「ロープ/戦場の生命線」バレ無し感想~ベニチオ・デル・トロが最高過ぎる

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「ロープ/戦場の生命線」を観たので、ネタバレ無しの感想を書きたいと思います。

私が最も好きな俳優の一人であるベニチオ・デル・トロと、かなり好きなティム・ロビンスが出ているという事で、それ以外の情報は一切無い状態で観に行きました。

結論から言うと、もの凄く良い映画でした。

アクションもスペクタクルもラブロマンスも皆無なのでカップル向きでは全くありません。

俳優にも演技にも興味が無い相方とは間違っても一緒に観てはいけません、上映中寝てしまう事請け合いですぜ。

が、映画好きにとっては非常に見応えのある映画でしたよ。

製作は2015年と3年も前なんですが、良く日本公開に踏み切りましたね、配給会社。

客はまぁ、入らんだろうなぁ・・・。

ボスニア紛争については多少知っておく必要がある

この映画の舞台は、冒頭で「バルカンのどこか」としか言われません。

ですが、これはボスニア・ヘルツェゴヴィナですね。

劇中では一言でしか説明されませんが、簡単に補足すると多民族国家であるユーゴスラビアで、カリスマ指導者の死をきっかけに民族間対立が激化してしまい、1991年には各民族が独立運動を始めて3つの民族間で内戦を始めてしまったんですね。

内戦当時は「民族浄化」というまぁ昔から良くやられている虐殺、レイプ、強制出産が国際社会で大々的に報じられ、何の利権を嗅ぎつけたのかアメリカを中心に国連、NATOも介入して泥沼化しました。

もともとは隣人として暮らしていた「他」民族ですが、別に心の底から仲が良かったわけではなく、いざ戦争となったら一瞬で他者に対する残虐行為に走ったんですね。

今作でデルトロ演じる主人公は、恐らく紛争地帯に行って人道的支援を行うNGO団体のメンバーです。

そこに国連の監査官?的なフランス人女性ソフィーが「戦場という現場に初めて出てきた、正義感に溢れる新米」として配置され、担当区域のとある井戸に「死体が投げ込まれているので何とか排除しなければ」という所から話が始まります。

邦題の「ロープ」は、この井戸の死体を引き上げるのにロープが必要なんだけど、様々な障害でロープが手に入らない、っていう所から来ています。

まぁこういうプロットは履いて捨てるほどあるじゃないですか。

戦争の過酷さ、組織の理不尽さを知っている現場のベテランと、単視眼的な正義感だけ持ってやって来た新米との絡みってやつ。

こういう場合、大概はこの新米が話を動かします。

やたら大げさな演技で、紛争地帯ではやっちゃいけないタブーを犯しまくり、グループに危険を呼び込んで、それをベテランが速撃ちとかのスーパーアクションで解決するってパターンです。

しかしこの映画はそんなB級ドラマとは一線を画していましたね。

一見上で書いたような行動をソフィーは取っているのですが、ステレオタイプの知能ゼロな女ではなく、デルトロの言葉や表情から徐々に「自分の行動が全員の生命を危険に晒している」事を感じ取っていく、そのさまが画面上にはっきり描かれています。

自分がイケテルと思ってやった行動で最初はドヤ顔をしていたソフィーが、最後に「自分の浅はかな行動が、なんて結果を招いてしまったんだ」となっていく過程と、その結果を受け入れざるを得ない大人の対応をしていたデルトロが抑えきれずに取ってしまう行動の対比が秀逸で、非常に完成度の高いシナリオでした。

ベニチオ・デル・トロの演技が全て持っていってる映画

私は渋いオジサン俳優が大好きなんですが、中でもベニチオ・デル・トロはずば抜けて演技力が高く、ルックスもイケていて大のお気に入りです。

この人が出ている映画と言うのは、この人の演技を観るだけでお金を払う価値があります。

今回の「ロープ」という映画は、派手なアクションも無ければ、手に汗握るクライマックスシーンというのも無く、淡々と進んでいくいわゆるヒューマンドラマなんですが、まぁデルトロの演技が素晴らしい事。

この人の演技と言うのは、セリフを喋るときではないんですよ。

もともと饒舌なキャラクターを演じる事が皆無と言っていい俳優さんですが、セリフとセリフの間の演技が本当に凄いです。

物語のラスト近くで、保護した男の子がせっかく手に入れてやったサッカーボールを10$で売ってしまったというシーンがあります。

デルトロが「なんで売ったんだ?」と聞くと男の子はすまなそうに「お金が要るんだ」と答えます。

「何のために?」と聞くデルトロに「14$しか持ってない。あと10$払えば、両親のいる街に連れて行ってくれる。」とその子が答えます。

NATOが介入し、国連が停戦を取り持ち、和平協定が結ばれている(時代だと思われる)状況ですが、劇中で描かれている現場の事情は平和とはあまりに程遠いわけです。

この間まで他民族を虐殺しまくっていたそれぞれの軍隊があっちこっちで検問を敷き、村々をつなぐ道路は地雷で封鎖され、かといって道を逸れたらそこは地雷原、井戸に死体を投げこんだのにしたって、水を住民に売りつけようと考えた連中とも、敵対する他民族とも知れない。

要は、誰が敵とも味方とも分からない上、武装している連中が野放しになっている。停戦はしているかもしれないが、殺戮が止まっているとはとても言えない状況です。

「危険すぎる、行っちゃダメだ」とデルトロは諭すのですが、男の子の表情を見て、あぁこの子は何を言っても両親に会いに行くつもりだ、と分かってしまうんですね。

ここでデルトロ、決して屈しない正義を振りかざし、あらゆる敵を排除するスーパーパワーを持ったマーヴェルヒーローでは「ない」彼が何を考えたか。

男の子が知らない「ある事実」をここで言えば、この子はあきらめるだろうか。

それを言ってしまっていいのか?

言わないならどうする?どうやってこの子を助けてやれる?

これらの心の動きが、一切セリフの無いほんの数秒の演技で観客に読み取れるんですよ。

これは凄い事だと思います。ベニチオ・デル・トロは凄いんですよ。

この後、実際に彼が取った行動はもの凄くスマートな回答でも、根本的な解決でもなんでもありません。

ですが、これが内戦のリアルなんだ、と強烈に観客に訴えます。いや素晴らしかった。

この男の子が結局どうなったのか?劇中では描かれません。

恐らく、描かれている状況からすれば悲惨な最後を遂げる可能性が最も高いでしょう。

ですが、劇中で何度も言われるセリフがあります。

「これが戦争だ」

この子がどうなるとしても、それが我々の生きる人間社会の現実なんだと。

 

この映画の原題は「A PERFECT DAY」で、ラストでソフィーが自嘲気味に一言吐くセリフなんですね。

水が無くて困っている村人を助けたい。

ロープ1本さえあれば井戸から死体を引き上げる事ができるのに。

あらゆる理不尽が、目の前で困っている人を助けたいと思う自分たちを邪魔する。

人の善意や良心が通用するには、完璧な世界を望まないといけないのか

というメッセージです。

 

井戸がどうなったのか?はラストで明らかになりますから、そこは安心してください。

日本公開2018年

監督 フェルナンド・レオン・デ・アラノア

106分

出演:

ベニチオ・デル・トロ

ティム・ロビンス

オルガ・キュリレンコ

メラニー・ティエリー

オススメ度:4.5/5.0

 

間違いなく傑作。ぜひ劇場で。
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